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インテル戦略転換

アンドリュー・グローブ著「インテル戦略転換」を読んだ。

著者は元インテルCEOで、ムーアの法則で有名なゴードン・ムーア達と一緒に創業に関わった社員一号。共同創業者かと思っていたら定款に発起人として記載されてはいないらしい。インテルと言えば、3,4年ほど前にAMDの猛攻とCPU温度の上昇に一時苦境に陥ったが、結局はマルチコア化を推進して再びコンピュータCPU市場の王者として圧倒的な支配力を行使している巨大企業だ。

だが、80年代半ばに、日本の富士通を筆頭とするメモリーメーカーの大攻勢に圧倒され、倒産の危機に瀕していた事はあまり知られていない。というか俺が生まれた頃なので、あくまで俺の周辺での話で、年期の入ったコンピュータ好きの人なら常識なのかもしれない。

インテルは日本メーカーの生産するメモリの、圧倒的な質の高さと値段の安さに自分たちのアイデンティティであったメモリ事業から撤退し、マイクロプロセッサー事業へと戦略転換していく。その自分たちのアイデンティティを否定し、全く別の事業へと進んでいく時の経営者としての内面を刻銘に描写しているのが本書の意義だと思う。成功している企業であれば、あるほどその戦略転換は困難になる。このあたりの議論はイノベーションのジレンマを読んでいる人ならばお馴染みの話になるのだが、実際に頭で理解していたとしてもそれを実行に移すのはとてつもない困難をともなうという事が伝わってくる。

また、イノベーションのジレンマでは主に技術革新に焦点を当てて、それ以外を捨象してしまっているのに対して、経営者のグローブの方は技術革新はあくまでひとつの要因でしか無いという立場で書いている。学者と経営者の視点の違いだが、グローブは、戦略転換点の特徴として六つの要因を挙げている。競争、テクノロジー、顧客、供給業者、補完業者、規制の六つである。

クリステンセンは主にこの六つの要因でいれば、競争とテクノロジーの部分だけに着目している。しかし、経営者のグローブの場合は、それ以外にも会社に大きな変化を要求する要素があるとう見方で、より実地志向と言える。この六つの要因はどれも非常に重要だけど、例えば、現在の日本では社会福祉の費用を捻出するために消費税の引き上げや広告税の課税などが検討されている。これは六つの要因の「規制」に属する。現在、SEOやネットマーケティングで事業展開しているような会社ならば、この広告税の導入で、一気に利益率が落ち込み戦略転換を図らざるを得ない状況になるなんて事も考えられるだろう。また、官製不況なんて言葉で揶揄される各種規制も、見方を変えればビジネスチャンスになりうるという発想も生まれるだろう。

とにかく、成功者ほど何故、戦略転換に失敗するのかを知るのには最高の文献の一つだと思う。このドロドロとした躊躇と判断ミス、そして中間管理職の重要性を説く部分は非常におもしろい。

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